秋葉原にて

秋葉原は、好きな街です。

あそこには、自分の知っているものがほとんどありません。

そのくせ、たまに、

とてもよく知っているものがあったりする。

そういうことは、とてもよいです。

三日ほど前、秋葉原に行ってきました。

会社で必要なハードディスクを買って、街をうろつきます。

フィギュアの店に入ります。

知っているものが、ありません。

かろうじて、

綾波レイのフィギュアだけわかりました。

わからなさすぎて、何かドキドキします。

誰かに

突然、お前何もわかってないだろ、とか言われそうな気がします。

次はまんだらけ

あそこは、好きです。本への愛を感じます。

やっぱり、知っている本は

ほとんどないのですけれど。

結局、「さよなら絶望先生」の7巻を買って

帰ろうとしました。

その時、後ろから僕の肩をつかむ手があります。

「この本を読んだかい」

その男の手には、僕の知らない本が握られています。

エスカレイヤー」とか何とか、書かれていたと思います。

「読んでないならば、買うかい」

僕は首を振りました。ちょっと興味はあったけれど。「いや」とか何とか言って、外に出ました。

もう一度、後ろから肩を叩かれます。

振り向くと、男は3人になっていました。皆、やはり手には、「エスカレイヤー」を持って。



全力で走りました。

振り向くたびに、男たちは増え続けます。

地響きが聞こえます。

僕は夢中で、「さよなら絶望先生」の7巻を、後ろに放り捨てました。

地響きがやみます。

誰も追ってきません。

読んでいるのでしょうか?

喉がかわいたので、僕はメイド喫茶に入ります。

「おかえりなさいませご主人様」「ただいま」

楽しいです。思わず笑顔になってしまいます。

オムライスを食べて、ジンジャーエールを飲んで、興が乗ってメイドさんとプリクラ撮影まで。

さて帰ろうと立ち上がると、メイドさんは僕の袖をつかみ

「帰らないで」

もてる男はつらいねえ、と笑って別れようとしても、メイドさんは力をこめて、袖を離すまいとします。

すごい力。

気づけば他のメイド達も

僕を取り囲むように立っています。

モップ。

フォーク。

特殊警棒。

気づけばみんな武器を持って、小首をかしげて笑います。

僕は、袖つかまれたままの上着を脱ぎ捨て、渾身の力で跳躍し、

やっと逃れた店外には、またしてもエスカレイヤー男の群れ。

全力疾走です。

50m6秒5です。

やたらと照り返すアスファルトの上を

目の前が黄色くなるまで

僕は必死に駆けました。



ふと気がつくと、

誰も僕を追ってはいません。

電気街がはるか遠くに見えます。

そこはもう、秋葉原ではありませんでした。

また来たいな

と思います。